八転び七起き

はじめましてKRZです。

2021年6月18日

うちの近所にはカラス天国がある。もちろん居酒屋とかカラス料理店の名前ではない。そのまんまカラスのための天国である。天国であるその理由はいたって単純である。カラスにとっての幸せがそこには山のようにあるからである。つまりはご馳走にありつけるということだ。家庭ゴミと言えば収集の曜日が決まっているものだが、うちの近所はそんなルールはまもられてはいない。守られていないということはゴミを出す方法もかなりワイルドである。だから毎朝の出勤どきには自宅のマンションから少し歩いた場所ではカラスが大宴会を催している。ちょっとした幅の道路ではあるがあまり車が通らない住宅地であることもあり、ゴミは極めて存在感がある様式で捨てられている。正確に言えば捨てられていたのであろう(推定)。なぜならボクがそのゴミを目撃する時点ではすでにその原型はみじんも残っていない。ゴミ捨て場(場というよりも山)から道路のど真ん中まで春先の山で発生する雪崩のように飛び出しているのである。ゴミの山の付近はまさに90分食べ放題居酒屋(税込み3000円ぽっきり)の熱気であふれている。酒池肉林という言葉はまさにこのことを言うのだろう。KFCの骨付きチキンに、ビールの空き缶。誰かの晩飯がまるっと大公開である。その大宴会会場を避けるようにして通り過ぎる出勤中の人間たちは大宴会中の10数羽のカラス様ご一行の迷惑にならないように「ちょっと失礼いたします」といった表情でこそこそとわきを歩かせてもらうといった有様である。人間とカラスの力関係がこんなにも逆転している場所は他にはないと思う。しかも空を見上げるとご馳走の残り物を待ちわびている比較的弱いハイエナカラスたちが電線を所狭しと埋め尽くし、さらにはハイエナスズメとハイエナハトも混じっている。アフリカのサバンナに来ている気分になれる。そんな環境のなかに1人の老婆が人間の崇高な尊厳をかけて戦っている。彼女は片手には箒、もう片手にはやぶれていないゴミ袋をもっている。そしてどっちらかった生活ゴミを片付けているわけであるが、カラスにとってみれば大迷惑な行為である。しかしそんな迷惑な人間なのにカラスは怒ったりはしない。黙々と掃除する老婆を横目にしながらただただ獲物をもりもりと食べる。これも何かの共存関係と言えるだろう。宴会も終わるころには道路はいつものように生ごみの匂いを放つ湿った影だけを残して撤収される。ゴミを食うカラスはそれを恵んでくれた人間のことをどう思っているのかわからないが、嫌っているわけではないのだろう。散らかったゴミを跡形もなく食べつくして撤収してくれるならこれほどありがたい生き物もないだろうが、そうもいかない。食べた後に掃除をするカラスは一羽もいない。