八転び七起き

はじめましてKRZです。

2021年6月2日

実は婆ちゃんは広島カープのもと監督であった。広島にはそんな監督がたくさんいる。元気なころは過去数十年分のペナントレースのすべてのカープの試合を一球一球を見守って(ラジオで聞いていた)いたし、選手一人ひとりの状態もほぼ完ぺきに把握していた。だから次の試合にはだれが先発ピッチャーかなどすべての予想が的中した。ボクが大学生のころには日が暮れて家に帰ってくるとまっさきに婆ちゃんのところにいって今日のカープは?と聞いた。もちろん試合の結果である。すると、「勝った」、「負けた」とだけ教えてくれた。さらに詳しいことを聞けばその時々の分析評価を果てしなく話してくれた。そんな監督婆ちゃんがいちばん好きだったのはどの選手だったのだろう。生きているころにはあまりそんな話をすることもなかったのでいまとなって無性に婆ちゃんと話がしたい。天国につながるZOOMなんてあればいいのにと思う。名前はITAKO ZOOMなどが分かりやすい。さて婆ちゃんとのZOOM会は「好きな選手、野球あれこれ話」なんてテーマだ。そんなことが出来ればきっといろいろな話題で尽きないだろう。カープについて思い出すのはなんといっても衣笠だ。婆ちゃんはいつも衣笠のことをボロクソに言っていたことだ。それだけ婆ちゃんは衣笠のことが好きだったのだろう。確かに顔も似ていた。だれだって期待している選手がバッターボックスに立てば心の底から応援するものだ。それがホームラン狙いの大振り三球三振をしでかしでもすればおおいに腹も立つ。しかしあのド派手な空振りは実に見事だった。ボールとバットが30センチくらいは余裕で離れていた。あれほど絵に描いたような空振りはなかなかない。芸人で言えばすべってこけてそれでもファンがよろこぶ、みたいな不思議な魅力を感じさせてくれるパフォーマンスである。婆ちゃんもそんな風に微笑ましく思っていたのだろうか。話は少しずれるが、社会で仕事をしていろいろと苦労をして初めてわかることもあるものだ。子供のころに見ていた衣笠の三球三振は、実際に自分が仕事でそのようなへまをしでかした経験がないとその意味など分からないのだろう。子供はただただ、「また衣笠が三振しちょるけえのーほんまにだめじゃー」と叫ぶだけである。しかし生きることの難しさを知った後であの大空振りをみるとどうだろうか。ファンのため息で暴風警報がでるほどになる球場で三振してベンチに引っ込むときのあのふがいなさ。実に勇気のいるスイングだと思う。さて婆ちゃんの話。カープが負けるとわかっていても最後の1球を終えるまで婆ちゃんはラジオ中継を聞いていて、試合終了となったらひとこと、「あー負けたー」と言って教えてくれた。ボクなら負ける試合は聞いていても楽しくもないから聞くのをやめる。しかし最後の最後まで見届ける(聞き届ける?)のが本当のファンなのだろう。そんなことを考えていたらカープのラジオ中継を聞きたくなった。負ける日があるから勝つ日がうれしいのだ。まずはラジオを買わなくてはいけない。